ロンドングラフィックデザイン展「UK? OK!!」

Neville Brodyと『Fetish Record』、Peter Saville『Factory Record』の関係に始まり、1990年代のTomatoとUnderworld、2000年代のTappin GoftonとColdplayなど、優れたグラフィックデザインの多くは音楽を包むヴィジュアルとして生まれた。しかし、レコード・CD文化が衰退してきた現在、UKのグラフィックデザインシーンはどうなっているのだろう…。そんな疑問からこのプロジェクトはスタート。そして、デザインシーンに与えた影響の大きさと、今後影響を与えるだろうという期待感の2つの観点から22組のUKグラフィックデザイナーをピックアップ。1980年代から現在まで約30年間のUKグラフィックデザインシーンを総話しつつ、今、新たに起こりつつあるムーブメントを体感できるエキシビション「UK? OK‼︎」は、2010年8月、パルコファクトリーにて開催された。
 
main pic

会場デザイン/音響空間デザイン

『ミラノサローネ』でも紹介した現在もっとも注目をあびている若手建築家、谷尻誠(Suppose Design Office)が会場をデザイン。ミラノで視覚的、聴覚的に空間を消した展示(部屋の大きさが判別できない巨大な空間に感じる)は話題となり、音や聴覚が心地よい空間には欠かせないことが、ようやくインテリアや建築の世界でも認められてきた。初日の3週間前という無茶ぶりで、彼から私への依頼は「音響デザイン」。四角く電話ボックスのように囲われた空間(ただし120cmから下部はオープン)が11個、その中央の位置だけで、音を聴かせたいというもの。ポスターのキャプションに「グラフィックと音で体感するUKデザインシーン」とあり、来場者は音にも期待が高まる。
 

パラメトリック・スピーカー

40kHzの超音波を搬送波として、聴かせたい音をのせる。超音波は、音響エネルギーが扁平状に、まるで光のように「直進する」ため非常に鋭い指向性をとることができる。空気中で音が伝わる際に「非線形特性」によって歪み成分が可聴帯域として復調される。これにより限定した非常に狭い範囲に遠方まで音を届けることができる。写真の小型のユニット(日本セラミック製AS050A/センサーΦ 10✕50個)でも屋外で30mくらいは届く。
 
speaker

 
超音波を使用したパラメトリック・スピーカーはエネルギーが扁平状に直進するため非常に鋭い指向性を持ち、限定した範囲に遠方まで音を届けることができます。一方、従来のスピーカーはエネルギーが円弧状に広がるため、指向性が広くなり聞こえる範囲を限定することは困難です。また遠くなるほど減衰が大きくなり遠方に音を届けることも困難です。熱を逃すために、15mmのスペースを付けた。また4点のボルト、ネジ、ワッシャー、スペーサーの閉め具合で、正確に指向性を微調整することができる構造に。
 
最近は美術館などでも、例えばある絵画の前に立ったときだけに聴かせるなど、耳にしたことのある方も居ると思う。ハコの中に3人で入っても真ん中のひとりだけに聴こえる、外には聴こえない、というオーダーにはこれが正解となる。ただし低音が出ないシャラシャラの音質なので一概に評判がよくない。ではどうすれば解決するか?ミラノサローネの展示で使用した超磁歪素子も低音が出ない。2ウェイでウーフアーを組んでやれば解決できる。レセプションの際には、ハコの中心低い位置から鏡を使って、実際に音が光のような振る舞いで、言葉そのまま鏡面反射をする実験はマジックとしても好評だった。
 

Eclipse TD307 117で低音を作る

 私は「PMC MB1」と切り替えつつ、ミキシングにも必ず使用しているモニター・スピーカーで、インパルス応答特性がもっとも優れた小型スピーカーである。その性能はハコを共振させるのに充分なトランスデューサーとなる。P.126のAES 音響基礎セミナーで「固有周波数=共鳴周波数」について解説されていますが、四角く囲われた空間ではモードを利用してやると、小型のスピーカーでも低音をデフォルメすることができる。
 
dsa

 
ブース内角天井部分にEclipse TD307 IIを低音用に設置。円錐形のアンプTDA501 II(写真右)の形状は、音の再生に影響を与える不要な振動の排除と、音の広がりを崩さない機能性から生まれた必然のフォルム。正確な音の再生を突き詰めた結果。
 

iPadでループ再生

 会場の11個のブースにそれぞれプレーヤー(各ハコ2名のデザイナー)としてiPadが用意された。ビデオをiPhotoに取り込み、アルバムを選択してスライドシヨーにするとループ再生ができる!これで各ハコの天井部分から、真下だけに音が流れる。床には反射防止のためにカーペットが敷かれてあり、ハコの外では何も聴こえない。
 
sample

 
※本記事はPROSOUNDの連載 SAIDERA PARADISO vol.56 「ロンドングラフィックデザイン展『UK? OK‼︎』」からの抜粋に、一部補足を加えています。全文は、誌面(2010年10月号)よりお読み頂けます。

音環境がつくり出す商空間の行方

※以下は「商店建築」2010年11月号に掲載された内容の後半です。前半(ミラノサローネについての内容)はコチラ
 
一お二人は、8月に東京・渋谷のパルコファクトリーで開かれたロンドングラフィック展「UK?OK!!」でもコラボレートしています。

谷尻:ロンドンのグラフィックデザインを紹介する展示会でした。会場構成を手掛けるにあたり、どうしたら「ロンドンらしさ」を感じてもらえるかと考えて、音でロンドンを感じさせるアイデアを思いつきました。11個の箱形の空間をつくり、その中だけで音が聞こえて、外では聞こえない状態をつくったのです。ロンドンの街は雑踏やノイズに溢れているイメージがあったので、箱の中に入るとアーティストのインタビューが聞こえるけれど、箱の外では来場者の行き交う音しか聞こえないという状態はとてもロンドンらしい演出になると思ったのです。それを音響的に実現できないかとセイゲンさんに相談しました。開催の3週間前だったでしょうか。

オノ:かなり厳しいスケジュールでしたけれど、もちろん引き受けました。箱が電話ボックスのように閉じた状態ならば、その中だけで音を聞き、周囲の音を遮断することは簡単ですが、これは箱の下部が開いている。そこが課題でしたよね。

谷尻:そう、上半身だけが隠れるようなボックスでしたね。
 
オノ:開放的な箱の中に立つ人だけに、ピンポイントで音を聞かせるにはどうしたらいいのか。その回答として選んだのが、日本セラミックのパラメトリックスピーカーです。最近では美術館でも見かけるようになりました。絵画の前までいくと、そこだけで解説が聞こえるというスピーカーで、これを箱の頭上に設置すれば、その下に立つ人にだけ音が聞こえる仕組みを実現できます。しかし、パラメトリックスピーカーは500Hz以上の高域しか再生できません。そこで、箱の天井部分の内角に低域用の小型のスピーカーを設置して、箱のモード(固有振動)を利用して低音を再生しました。箱自体がウーハー、全体で2ウェイスピーカー。つまり一度音を解体して、それを箱の中で体感として一つの音として聞こえるようにデザインしました。

谷尻:音を一つとして表現するのか、たくさんあるものを一つとして感じさせるのか。セイゲンさんは後者の方法論を用いて音を表現していますが、この考え方は、僕のデザインに対する考え方と共通性があります。例えば、美容院の設計を依頼された場合、僕は美容院という場所でどんなことが起きているのかを考え、いくつもの要素に解体してみるところから考え始めます。美容院では、どんな行為があり、どんな設備が必要で、どんな空気が流れているかとどんどん解体していく。そのなかでデザインの要素を抽出して再構築することで、形が出来上がっていく。それはセイゲンさんがやっていることにリンクしていると思います。

一設計者が音響の専門家に依頼する場合、どの程度の音響の知識が必要ですか。

オノ:知識は全くなくていいと思います。そこでどんなことをやりたいのか、という明確なイメージがあって、一緒に空間からつくっていける環境を整えてくれることが大切です。商業空間で音響を考えるというと、大半の設計者は「音楽は何をかけるのか」という話から始まり、「JAZZならばスピーカーはこれ」という、備品選択の話だけで終わってしまう。音をコンテンツとして扱う演出方法はもちろんあってもいいけれど、音楽は個人の嗜好性が影響しますので、それだけに頼るのは危険ですし、物理的な空間にまで影響を及ぼすことはできない。それよりも、建築段階から音響デザイナーがかかわれる状況が出来れば、そこにはまったく新しいビジネスモデルを生み出す可能性があります。「名古屋の家」や「Luceste」のように、音の反射、拡散と響きによって空間の広がりや奥行きを感じさせることは、空間の価値を高めることにつながります。

谷尻:商業施設はどこも自己主張することにばかりに気を取られているように思います。店ごとに音楽をガンガン鳴らして主張し合っていますが、みんなが同じことをしているのでノイズにしか聞こえません。むしろ、音を消していくことで商品にきちんと向き合える状況を生み出せるのではないかと思うのです。つまり、ノイズに溢れている状況の中であえて主張しないことが、圧倒的な存在感を放つ手段になり得るのです。セイゲンさんと一緒につくった空間は、まさにその回答と言えるでしょう。僕は設計者自身が、目に見えない空気や光、音にもっと意識を向けたクリエーションをすることが大切だと考えています。そうした連鎖が街や都市に広がれば、真に豊かな環境が生まれるのではないでしょうか。
 

HOME | Saidera Ai Design | ロンドングラフィックデザイン展「UK? OK!!」