Silence spins - 東京都現代美術館 (2012)
東京アートミーティング(第3回)「アートと音楽 - 新たな共感覚をもとめて」展 のインタレーションの1つが、オノ セイゲン、坂本龍一、高谷史郎のコラボレーションにより実現したSilence spinsです。千利休の小さな仕切られた空間で無限の宇宙を想像する。目には見えない「音の展示」とは、すなわち「静寂な空間」の展示なのです。
小さな空間から無限大の宇宙を聴く、日本の茶室からインスピレーションを得たSilence spinsは、外側からのノイズと、内側での音の反響を最小限にまで抑える構造によって、 無意識的に空間を把握する感覚に働きかけます。内側に使用されている特殊な吸音素材は、自らの発する音に注意を向けさせると同時に高音の反射を遅らせるため、身体化した音と空間の関係性にずれをもたらすのです。
「人に限らず聴覚で捉える、ダイレクト音と反射音こそが3 Dの空間を認識していることは明らかで、視覚は後追いでそれを確認しているにすぎない。視覚障害者でもエコーロケーションのように訓練することで、直接に脳の中の視覚野に情報が届けられる。実はこれは無意識のうちに誰もが日常生活で使用している感覚でもある。」オノ セイゲン
Seigen Ono + Ryuichi Sakamoto + Shiro Takatani -東京都現代美術館
https://www.mot-art-museum.jp/music...
東京都現代美術館にて 10月 27 日より始まった東京アートミーティング第3回 『アートと音楽ー新たな共感覚をもとめて』は、総合アドバイザーとして音楽家の坂本龍ーを迎え、坂本は長谷川祐子 (東京都現代美術館チーフキュレーター)と共にこの展覧会の作品のキュレーターとしても大きな役割を果たしている。 記者会見、オープニングレセプションでの坂本のあいさつの要点に、 「アートと音楽というふたつのジャンルのボーダーを壊そう」また 「作品の意図はそれぞれの作品から自由に感じていただきたい」とあった。 それは展覧会を体験していただくしかない。また、作家の考えの断片やインタビューを掲載した公式書籍(写真)には、巻頭インタビュー:「坂本龍一、見ること/聴くことの未来へ」ー「感覚」に立ち返ったその先にあるもの [聞き手:畠中実]、そして各出展作家に投げられた次の2つの質問を投げての回答などが掲載されている 。①なぜ、この作品を作ったのでしょうか。②あなたにとっての「共感覚」とは何でしょうか。ぜひ参照いただきたい。
2012年5月、私は、吸音/ 遮音素材 「Aural Sonic」を紹介するためにニューヨークで、坂本龍ーのKAB Americaのスタジオを尋ねた。 80年代初期に、イギリスの音創りには石畳の反射や、カテドラル、コンサートホールなど響きの経験が影響しているよね 、と話していたことも思い返した。 そして、反射音を聴こえなくすると空間の大きさは把握できなくなる。 壁を取り払うと無限空間を創り出せる。 そこから聴覚の茶室というコンセプトは生まれた。その際に本展覧会のこと、さらに坂本と高谷史郎の数年前の京都での茶室での体験が重なり、 3人の作品として《silence spins》が生まれた。アートと音楽の展覧会の作品でありながら 「音源のない」 空間が作品なのである 。 人の出会い、作品の生まれるタイミングは計算では説明できない。 さらに、 2013年3月シャルジャビエンナーレの 《silence spins》 の出品が決まったというニュースまで入ってきた。
吸音/遮音の解説
私たちは今までに前例のない2種類の強力な吸音/遮音材料を使用して、聴覚的に内側からは壁の存在を消し、外側からの騒音は中に入ってこない空間《silence spins》をデザインした。①外側からの騒音がまったく中に入ってこない「Shizuka Stilless Panel」は、簡易無響室ができるほどの吸音/遮音性能。②内壁にした「Aural Sonic」は、聴覚的に壁の存在を消してしまう。その特許原理によると、音という空気の粗密波=縦波から横波変換を起こすことで、吸音/遮音と同時に主に高域でほんの僅かの群遅延を感じることで、実際より大きな空間に感じる。
よって《silence spins》は、灯りとりの隙間をアクリルで塞いで密閉空間にした状態ではまるで毛布で光を 遮るかのように、低域にまで吸音/遮音効果がある。当展示では、にじり口及び隙間を開放している。密閉すると、部屋のモ一ド(Room Mode)、定在波(Standing Wave)の問題から逃れることができないという空間音響の常識を覆すような体験ができる。
にじり口を入るだけで静寂な空間で、無意識のうちにも耳を澄ましている状態になる。自分の息、自身が発する僅かな音、より気の遠くなるほど小さなレベルの反射音に耳を澄ますことで、《silence spins》では、禅の修行にも近い体験ができる。
視覚より先に聴覚が空間認識している
耳を澄ます
都会では溢れる灯りのために天の川が見えないように、騒音の中では、どんなに注意して集中しても繊細な音、ピアニッシモ、ささやくような音はマスキングされて聴こえない。ノイズ(暗騒音)に埋もれてしまっているのです。逆に静寂の中では、はるか遠くの音までまるですぐ近くのように聴こえる。にじり口を入るだけで、このレベルの静寂な空間を創り出せると、その中では無意識のうちにも耳を澄ましている状態になる。ヨーロッパのカテドラルや石畳の長い響きとは対照的に、《silence spins》では、無意識のうちにも自分の息、足音、洋服の擦れる音、お客さま自身が発する僅かな音源(ダイレクト音)、より気の遠くなるほど小さなレベルの反射音に耳を澄ませて捉えるという体験ができる。
音は、反射したり回折する
音とは空気の疎密波で、海の波のように次々と伝わる。何か障害物にぶつかると反射したり、回折する。よって日常空間でも場所により音色や響きが異なる。音源であるダイレクト音、その初期反射と響き成分との割合により、音のエネルギーや明瞭度が異なるからである。教会、コンサートホール、会議室、お風呂、エレベーターホール、ロビー、寝室、石畳の道、海岸、深い森の中、それぞれの響きがあることを思い浮かべてみよう。石、コンクリート、ガラスのように反射する素材、木のようにやや反射する素材、カーペット、カーテンのような厚手の布、畳や障子のように高域を吸収する素材、それらの組み合わせと形状により空間の響き方が変化する。反射音、響きはあらゆる方向から来て、摩擦や熱として消えていく。
音は、空気が抜ける隙間さえあれば、木漏れ日のように音も漏れていく。外からの音を完全に遮断するには、隙間をなくす必要がある。《silence spins》では、パネルの間に敢えて隙間をつくることで木漏れ日が入る。そこから庭にあたる《collapsed》からの会話も遠くから聴こえてくるようにした。まるで草庵風茶室に木漏れ日や庭園の音風景が注ぎ込むように、外の音と光の取り込みをコントロールできる。その空間をアクリルなどで塞ぐことで航空機騒音に悩まされる環境でさえも中では静寂が保たれる構造になっている。
つまり聴覚の茶室
つまり《silence spins》は、「聴覚の茶室」である。一般的な吸音/遮音材は、グラスウールあるいは発泡ウレタン製であるが、同等の効果を得るには10倍程度の厚さが必要となる。少し音響に詳しい方は、それでは無響室(残響時間ゼロ、反射と響きがまったくない測定用の部屋)になってしまうではないか指摘されるかもしれない。ところが《silence spins》の内側「Aural Sonic」では無響室にはならない。私のサイデラ・マスタリングスタジオは、壁面と天井のほぼすべてを「Aural Sonic」に大改装したところ、空間の容積が実際の6倍か8倍以上になったように感じる。聴覚的に実際の壁までの距離を判らなくする方法はふたつある。無響室のように反射音を完全に消してやるか、その壁よりもさらに遠いもっと大きな空間で起こる無数の遅延した反射音を加えてやる方法である。
無響室では、残響時間ほぼ0秒で、音源から受音点に届く音量が距離の2乗に反比例するのに対して、「Aural Sonic」の画期的なことは、ほんの僅かの(高城方向で敢えてマイナス60dB程度相当のエネルギーの)まるで無数のレイヤーからの遅延反射音群が残るように私は感じる。吸音/遮音性能こそ「Shizuka Stilless Panel」に劣るものの(といっても驚くべき性能で)、これは実に画期的なことである。
ハニカム材のセルからなる「Shizuka Stilless Panell」
外側に使用した「Shizuka Stilless Panel」は、私の知る限り、世界で最高性能の吸音/遮音材料である。66mm厚のものは、低周波まで吸音/遮音できる。一般的な音響用のグラスウールあるいは発泡ウレタン製の吸音/遮音材とは、性能が桁違いである。これで6面体を構成した場合に中は、残響時間ほぼ0秒。音源から受音点に届く「音量が距離の2乗に反比例」するまさに簡易無響室を造ることも可能である。ただし、ほぼすべての音を吸収してしまい、反対側にも漏れないので、音楽用のアイソレーションブースや茶室のような心地よい空間にはならない。理論的には、航空機なみの騒音でさえ遮ることができるので、空港の近くで騒音に悩まされている学校などに茶道部を開設できるほどの性能だと思う。音がするものは、被せるだけでまるで灯りを毛布で覆うように消すことができる。素材は、吸音/遮音性能は優れているが、そのままでは崩れやすい連通気泡を有する発泡体をハニカム材のセルに押し込んで、主たる吸音/遮音構造体としている。さらに吸音面に金属繊維マット、裏側の面にアルミを配置して音を反射させさらに吸音している。ハニカム構造なので、そのままパーテーション壁として使用することができる。「Shizuka Stilless Panel」についても年明けあたりから販売開始する計画である。
粗密波を「空気の流れ」に変える「Aural Sonic」
縦波と横波の概念を、地震により引き起こされる津波に例えてみよう。深い海では津波は粗密波(=縦波)として時速約800km(ジェット機とほぼ同じ速度)もの速度で太平洋を横断する。海が浅くなると摩擦により粗密波の進む速度が遅くなり、しかし後ろからは圧力が来るため高く盛り上がる。沿岸に近づくとさらに浅くなり、さらに速度が落ちるが、水深が深いところでは速く、遠浅ではゆっくり進むことで、行き場のない入り江などでは津波はより高くなる。この時点でもまだ「水の流れ」ではなく粗密波としての「圧力の移動」なので、そこで浮かんでいる船は波の上下運動には乗るが、流されて横方向への移動は起こらない。ところがこの波の山は浅瀬(あるいは陸地)にぶつかり、後ろからさらに圧力が加わってくると、それ以上高い波になれない、行き場がない状態となり、山が崩れるしかない。この段階でようやく浮かんでいるものは、すべて陸側へ流されてしまう。縦波(粗密波)が横波(流れ)に変換された瞬間である。圧力移動ではなく、川のように水の流れとなる。
「Aural Sonic」の内部では、疎密波という縦波から空気分子の移動という横波への変換、さらに横波から縦波への変換を起こしている。実際には空気の分子は目で見ることはできないが、片岡教授の特許文書には、図解入りで空気の縦波(音)から横波(風)の変換の概念が記されている。
AuralSonicのダフルフェイスを両耳にあて、目を閉じる 。 耳元は無響室ではない不思議な空間となり、簡易/疑似で聴覚の茶室の体験ができる 。 外側lから大声で叫んでもまったく耳にダメージは与えない
美術館の音のパーテーション
そしてこの展覧会では、展示スペース間のパーテーションの一部としても、また私、坂本龍一、高谷史郎の作品である「silent spins」の主たる材料としても、メイド・イン・ジャパンの画期的な性能の吸音/遮音材料が2種類(別々の2社)使用されている。「Aural Sonic」については、サンフランシスコのAES、11月のInterBEE2012では会場内ブース及び、ニューオータニホテルでのデモも予定されている。
Sharjah Art Foundation (2013)
オノ セイゲン、坂本龍一、高谷史郎のコラボレーションにより実現したSilence spinsは、翌年にアラブ首長国連邦のシャルジャに拠点を置く現代芸術および文化財団であるSharjah Art Foundationが運営する展示に続きました。
silence spins is an infinite aural tearoom, seemingly without walls. This is accomplished by building walls that do not reflect sound – or at least, do so at a barely perceptible level. The walls are made of powerful acoustic absorption/isolation materials: on the exterior, Shizuka Stillness panels create a simple anechoic chamber while shutting out all outside sound; on the interior, Aural Sonic panels help eliminate sound reflections off the walls, making them seem as if they are not there. In silence spins, the space feels larger than it is in reality. As we set foot inside the tearoom, the silence allows us to relax our ears and brain. We concentrate on the sound of our own breathing or other subtle noises that we make, experiencing a Zenlike sensation similar to meditation.
Seigen Ono + Ryuichi Sakamato + Shiro Takatani
https://universes.art/en/sharjah-biennial/2013...