尺八リサイタル 2020  「寂静光韻」 
小濱明人

SDSD-1063
11.2MHz DSD Live recorded by Seigen Ono
e-onkyo   mora 
 

TRACK LIST:
01. 瀧落
02. 根笹調~下り葉
03. 雲井獅子
04. 息観
05. 浮雲
06. 鹿之遠音
07. 霊慕

次世代の尺八演奏家 小濱明人が、古典本曲三部作の完結編として開催したリサイタル「寂静光韻」のDSDライブレコーディング。尺八界の巨人、海童道祖・横山勝也師の二人が吹き伝えた本曲を、曲想に合わせ長さの違う楽器、工法の違う楽器(現代管・地無し管)を使い分けて吹奏。さらに、虚無僧寺 博多 一朝軒の第22世看首磯玄明師を特別ゲストに迎え、一朝軒に伝わる「鹿之遠音」を共演。
 
 
演奏曲目(解説:大阪芸術大学教授・地無し尺八吹奏家・ピリオド楽器研究家)
1 瀧落:2尺1寸管 (H) / 一城銘
滝は、人々を惹きつける何かが存在しますが、曲名を「たきおとし」あるいは 「たきおち」と読めば、様々なイメージが浮かびます。こんにちの伝承では、 伊豆・龍源寺の滝音を聴いて作曲したというものがよく知られていますが、起源については別說も指摘されています。 
 
縁のある伊豆「旭滝」を訪ね、献奏をした時のことです。私は想像以上に力強い滝音に圧倒されました。また曲中に出てくる、滝の流れに逆行するような美しい上行旋律に、昇る朝陽 (旭) が連想された時、長年の疑問が解けた気がしました。(小濱) 
 
2 根笹調~下り葉2尺1寸管 (H) / 一城銘
根笹調:「調べ」とは、本曲の前奏として吹奏される曲種です。この曲は、青森県の文化財として保存されている根笹派錦風流の伝承であり、全曲を通して、持続音を断続的に揺る「コミ吹き(コミ息とも)」が用いられるのが特徴です。
下り葉:琴古流や根笹派錦風流に伝わる本曲ですが、全曲を通して「コミ吹き」を用いるのは、後者の伝承です。なお、楽曲として演奏する場合、「根笹調」と続けるとまとまりがよいとされています。また、一節切に同名曲の伝承があります。
 
青森の厳しい自然や気候を現すかのような「コミ吹き」。尺八は竹藪を通り抜ける風の音を理想とすると言われますが、この錦風流の曲は体を貫く風を現している気がして、吹く度に不思議な感覚に包まれます。(小濱)
 
3 雲井獅子1尺5寸管 (F) / 浩和銘
琴古流や明暗対山派が伝える九州地方から移入された獅子ものの一種。軽快で拍節的な拍子によって奏されることもあり、また、琴古流では替え手を付けた大合奏が行なわれることもあります。
 
一朝軒の曲という事で選ばせて頂きました。海童道祖・横山先生の身体を通って、より軽快で躍動的な曲調に変容しているように感じています。(小濱)
 
4 息観:2尺4寸管(A) / 優鳳銘 
海童道について、横山勝也師は「その面目は息を鍛えること」にあると述べられました。「恩師曰く、息観は呼吸の静観さを味わいつつ技法に於いて動的境地を現すところの法なり」と解説されています(「三界輪転」日本コロムビア 1980より)。 
 
座禅に「阿字観」「数息観」という用語がありますが、「息を観る(見つめる)」 というこのタイトルは、まさに尺八吹禅に相応しく、深い呼吸が求められます。 海童道祖の哲理が垣間見られる名曲です。 (小濱)
 
5 浮雲:2尺4寸管(A) / 浩和銘 / 地無し管 
この音楽は、古典本曲的な演奏様式によって、次のような境地が表された吹奏 (音)と解釈すればよいでしょうか。横山勝也師は、自身の伝承における解説 (出典は《息観》と同じ)で「白雲の悠々として去来する姿に、人生の在り方を照見し、その現れ出る調べを<浮雲>という」(中略)、海童道では「自身が風となって浮雲と一如の境に住せよと教えられています」と記されました。
 
曲調から、どうしても地無し管で吹きたかった曲。尺八には音味(ねあじ)という楽器の音色を評する言葉がありますが、この曲はまさに音味を味わう曲だと思っています。 (小濱)
 
6 鹿之遠音尺八I : 小濱明人[1尺8寸(D) / 無銘 / 地無し管] 尺八II : 磯玄明 [1尺8寸(D) / 無銘 / 地無し管]
嘗ては中学校音楽教育の鑑賞曲の定番でしたが、古典本曲中では特殊な楽曲にあたり、曲名の解釈も様々です。「呼返(よびかえし)」が冠されることもあり、鹿の生態を喩えに思いがあらわされます。こんにち琴古流と明暗流の伝承がよく聴かれますが、前者が劇場鑑賞用として極められたのに対し、明暗系は、寺社での奉納演奏に多く、本日は明暗対山派系統の伝承によります。
 
鬱々とした、人が分断されるこのコロナ禍において、一朝軒での座禅体験と合奏稽古は一生忘れる事はないでしょう。心が解放され、音を重ね合わせることの素晴らしさを再認識した時間でした。また、他の曲とは違った音程感覚が求められ、本曲伝承の多様性を感じます。 (小濱)
 
7 霊慕:2尺4寸管(A) / 優鳳銘 
海童道の伝曲は、古典の伝承を咀嚼したのちに、それを超越したところにあると考えます。曲名を「レイボ」と読めば、古典本曲に関連することは明確ですが、道祖は「リョウボ」とも呼んでいます。尺八も音楽も超越して「体達によりて哲理を具現する調べと化したのである」とされます(出典は「神秘の竹の音」クラウン1968ほか)。
 
横山先生の本曲の中でも、深さとドラマ性を兼ね備えた名曲にして大曲。冒頭、 深い最低音に始まり、中盤・後半にかけ高音部が交錯し、終盤のクライマックス において尺八の魅力が爆発する。2年前、三部作の終曲はこの曲にすると決めて走り始めました。 (小濱)


小濱明人(尺八)
特別出演:磯 玄明(尺八/普化宗 一朝軒 第二十二世 看主)
Live recorded and mastered by Seigen Ono at Saidera Mastering 
 
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